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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第319号(2017.02.10)

APA論争にかけた大切な視点

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1.APA論争にかけた大切な視点(論長論短 No.286)
2.ソフトブレーングループからのお知らせ(セミナー&最新情報)

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■1. 論長論短 No.286

APA論争にかけた大切な視点

宋 文洲

私は南京大虐殺の論争に何の興味もありませんでした。日本に長くいると元谷さんのような方とよく出会います。いちいち怒っていたら体がもちません。しかし、私の興味と関係なくこの件は世界中に波紋を広げています。中国語ニュースや英語ニュースにこれだけ出てくると嫌でもその行方が気になります。

China boycotts Japan hotel chain APA over Nanjing Massacre denials. これはCNNのニュースタイトルです。この件を報道するニュースの中では、中国語ニュースは言うまでもありませんが、英語ニュースでもまず一番目立つキーワードは固有名詞の「Nanjing Massacre 南京大虐殺」でした。

Right-Wing Hoteliers in Japan Anger China With Radical Historical Views. これはニューヨークタイムズの記事です。タイトルが示す通り、「右翼ホテル」や「過激」がポイントです。元谷さんは本を通じて南京大虐殺を否定するつもりでしょうが、結果は真逆です。

事件化してしまった後、彼は嬉しそうに「今や知名度は世界一」と語ったようですが、世界中の若い世代にも改めて「南京大虐殺」を知らせ、APAホテルは「過激」な「右翼ホテル」であることを知らせたのは確かです。日中両国の当局も巻き込んだことで改善中の日中関係(特に民間関係)に水を差したのも有名でしょう。

中国や韓国の観光客のみならず、華僑の多い東南アジアの民間人が気持ちよく泊まれるホテルではないことも有名でしょう。よく分かりませんが、普通の日本人もサービスの良しあし以前に、有名な「過激」な「右翼ホテル」に泊まりたいと思わないのではないでしょうか。

南京大虐殺(南京事件と言いたい方はどうぞご自由に)に関する民間人の本は出版自由の範囲に入っています。誰がどう騒ごうが、これは日本の法律にも中国の法律にも抵触していません。近年、日本の本屋にこの系統の本が多いことは中国人も知っています。だからといって抗議する人はいません。したがってAPAの件は「言論の自由」の問題ではなくビジネスマナーの問題です。ドイツ人が戦時中に「虐殺がなかった」という本をホテルの客室に置くなら欧米中心に同様の波紋が起きるでしょう。

元谷さんのような見方をする日本人は全体の何パーセントを占めるかは分かりませんが、絶対数でいうとそれなりの数はいます。それでも大多数の日本人の観点を代表していないと思います。犠牲者の数を巡る意見相違があっても日本政府も虐殺そのものを認めています。

「お客様が第一」「顧客視点」は本来、サービス業の基本です。ビジネスの観点から見ても元谷さんが個人の趣味をお客さんに押し付けるのは法律違反ではありませんが、邪道です。まあ、それを無視してもそうしたいのであればどうぞお好きに勝手にやればいいです。彼には言論の自由がありますが、中国系の顧客もリラックスできるホテルを選ぶ自由があります。

顧客に「政治と野球を語らない」という暗黙のルールが日本のビジネス業界にあります。信じる理念や応援する野球チームが異なっても気持ちよく商売しようという気遣いです。元谷さんは「中国人韓国人が来なくても構わない」ようですが、日本のサービス業界全体はそう思わないでしょう。

南京大虐殺に戻りますが、他の歴史問題と同様、唯一の解決方法は無視と放置です。時間は必ずこの問題を解決してくれるからです。過去においてどこの国がどこの国の人をどれほど殺したかの論争は不毛です。特に南京大虐殺のような日本政府を含む世界に定論のある話を蒸し返すのは日本にとって自害行為です。

我々中国人も日本人だけが虐殺を行ったと思っていないのです。中国の清朝は満州族の朝廷であり、我々漢民族は彼らに植民支配されていました。漢民族の明朝が崩壊する際、満州族が万里の長城を超えて中国内陸地を攻め込んだのですが、膨大な数の虐殺を行いました。

宋朝がモンゴル族に倒された時も膨大な虐殺がありました。数十万の虐殺数字は頻繁に出てきます。それは一人一人の犠牲者を数えた結果かといえば、当然違います。いま現在でも中東で起きている戦乱の正確な民間人犠牲者を数えることはできないのです。

我々中国人同士もお互い膨大な虐殺を行ってきたのです。検証困難な遠い歴史は別として、蒋介石政府の共産党とその本拠地にいた民衆への虐殺や共産党政権後の旧体制支持者への仕返しにも膨大な犠牲者の数があげられています。数十万~数百万というのですが、数字に関する相違があってもその事実を否定することは誰にもできません。

虐殺犠牲者の正確な数を出すことは不可能であっても虐殺の存在についてそれほど大きな争議はありません。南京大虐殺の犠牲者が30万人じゃないからと言って存在しなかったという結論は飛躍しすぎです。だから虐殺否定についてニューヨークタイムズも「右翼ホテル」の「過激」な歴史的見解と表現するのです。

先日、ロシアとの関係改善に意欲を示したトランプ氏にFOXニュースの記者が「プーチンは人殺しだ」というと、トランプ氏は「人殺しはたくさんいる。我々の中にも多くの人殺しがいる。我々の国がそれほど潔白だと思っているのか」と返しました。

トランプ氏にはいろいろな欠点がありますが、こういうことが言えるところが好きです。我々中国人も日本軍の虐殺を忘れないだけではなく、自分達の虐殺にももっと目を向ける努力が必要です。

ただ、虐殺が歴史になるのに一番必要なのは努力ではなく、時間です。100年も経てば、被害者もいなくなり被害者から直に話を聞いた人もいなくなります。その時に心の中で続く戦争が終息し戦争は初めて歴史になります。

私達ができるせめてものことはまだ人々の心で続いている戦争を外に取り出さないことです。もっと前向きなところ、もっと共通しているところに目を向ければ日中は文化的にも人種的にも最も近い国であることに気付くはずです。(全く日本語が分からない中国人でもこの文章の漢字を読むだけでだいたいの意味は分かります)。

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