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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第293号(2016.01.22)

日本政府の契約精神の欠如

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1.日本政府の契約精神の欠如(論長論短 No.260)
2.日本に長寿企業が多いのはなぜか――脳科学から見た日本人【中編】
  (脳科学者 中野信子さんの連載 第6回)

3.宋文洲TV出演のお知らせ

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■1.論長論短 No.260

日本政府の契約精神の欠如
宋 文洲

タイトルをみて「反日」だと思うならばここで読むのを止めましょうね。

ご存じのように、英国デザイナーのザハ・ハディドさんの新国立競技場のデザインは撤回され、隈さんによる新しいデザインが発表されました。
これまでの時間と費用はもったいないのですが、契約中止自体はよくあることです。契約書の中止条項に基き、各自が義務を果たせば何の問題もありません。

しかし、今年になってハディドさんは「日本JSCは支払を拒否し私の著作権を奪取しようとしている・・・満足できる解決がなければ法的措置をとる」と世界のマスコミに訴えたのです。ザ・テレグラフ紙が入手した日本JSCの文書複製によると、日本JSCはハディドさんの元デザインを新デザインに「無制限な変更および再利用」ができるように、条項改変を要求したのです。
詳細はこちら

ここに日本JSCの契約精神の欠如を見ることができます。
まず、契約に書いていない内容を後になって追加するのは相手にお願いすることです。それを理由に支払いを停止するのは契約違反です。

次にハディドさんのデザインを止めて隈さんのデザインを採用した以上、隈さんのデザインにハディドさんのデザインを含めてはいけません。
含めるならば、事後ではなく事前の了解が必要でした。

最後にもし、ハディドさんが指摘した新デザインのパクリ問題(腕状体、地上出入口、内部構造レイアウト、ランドスケープ、アクセス戦略、サービスアクセスなど)が本当であれば、日本JSCの契約変更要求は明らかにパクリ問題を隠すための口封じ作戦です。

パクリに不払い。まさに契約精神の欠如の極まりです。

考えてみれば日本JSCのパクリとの縁はなかなか深いものがあります。
審査過程を操作して選んだエンブレムはパクリの指摘でしぶしぶ撤回されました。スタジアムは「世界一」の建設費で国民の怒りを買って中止しましたが、その僅か14週間後に予算に合う新しいデザインが発表されました。

ハディドさん達はデザインに二年間も費やしたことを考えると新デザインの速さはまたも「世界一」に見えたのですが、外形のデザインだけを変え、ハディドさんの内部設計とコスト削減案を流用すれば、確かに14週間で予算に合う「新デザイン」は可能です。やっぱりパクリの色が濃厚です。

日本JSCは日本政府ではないという人もいますが、これは日本外務省が日本政府ではないというような台詞です。東京オリンピック招致の時から安倍総理が日本政府を代表して約束しました。すべての最終決定は政府高官が行っていますし、最終責任を持つのも日本政府です。

インドネシア政府と中国企業との高速鉄道の契約を、日本の官房長官が激しく批判しました。この取れない契約への批判はまさに契約精神の欠如です。
契約しない権利は誰にでもあるからです。数カ月後、インドの日本新幹線方式の採用について問われた中国のスポークスマンは「インド政府には選択する権利がある。我々はそれを尊重する。」と回答しました。

日本はインドネシアが中国企業に地質データを提供したことも批判しました。
賄賂をもらったとの報道も流行りました。しかし、契約に使用制限条項がない限り、地質データはあくまでも地主(依頼主)のものです。店員が測った客の身体サイズは店のものではないのです。客が他の店で服を買った時に「俺が測ったサイズを使うな」と言ってはいけません。

さて、今回のハディドさんの扱いについて、私の知っている限り、日本人の殆どが日本政府のやり方に恥ずかしい思いをしています。「まるで途上国のようだ」という方もいますが、賛成できません。契約精神が欠如する人はどんな国にもいるからです。
途上国では民間人が多く、日本では政治家が多いようですが・・・。

(終わり)

今回の論長論短へのご意見はこちらへ↓
http://www.soubunshu.com/article/432831578.html
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また、次回以降の宋メールでご意見を掲載させていただく可能性がありますので
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今までの論長論短はこちら↓
http://www.softbrain.co.jp/mailmaga/list.html

■2.脳科学者 中野信子さんの連載 第6回

日本に長寿企業が多いのはなぜか――脳科学から見た日本人【中編】
中野 信子

規範や前例を重んじるタイプの人と、新しいスタイルを取り入れたがる人とでは、脳がどのように違っているのだろうか。

この違いには、神経伝達物質の一種である、セロトニンが関係している。
セロトニンは、"鎮静系"の神経伝達物質で、"興奮系"のノルアドレナリン(恐怖、イライラを感じさせる)やドーパミン(快感、高揚感の源)に対して抑制的に働き、脳の機能のバランスを調整する役割を担っている。安心感や、おだやかな幸福感をもたらす物質、と言い換えてもいい。

セロトニンは脳内で合成・分泌される。が、一度分泌されたセロトニンはそのまま分解されてしまうわけではなく、神経細胞に再び取り込まれ、再利用される。これを担うのが、「セロトニントランスポーター」という、リサイクルポンプのようなタンパク質。このタンパク質は、人によって持っている量が違う。そして、国によって、それらの人々の割合も変わってくるのだ。

1996年1月に、好奇心や積極性に関連する遺伝子がある、という報告がなされて以来、人間の性格や知能に関連する遺伝子についての研究報告が相次いだ。
セロトニントランスポーター遺伝子もその一つである。

現在、ヴュルツブルク大学で研究チームを率いるクラウス=ペーター・レッシュが、1996年にサイエンス誌に発表した遺伝子と性格についての論文によれば、セロトニントランスポーター遺伝子には、L遺伝子(セロトニントランスポータを多量に作る)とS遺伝子(少なく作る)の2つのタイプがあるという。
S遺伝子をもつ人は、脳でセロトニンを使い回しづらくなるため、もたない人より不安傾向が強く、新しい刺激に対して回避的で、大胆な意思決定をしにくい。

組み合わせは、SS、SL、LLの3通りになるが、日本人では、SS型とSL型を合わせたS遺伝子を持つ人が約98%。新しい物事を恐れず、大胆な行動を取ることのできるLL型の人は2%程度しかいない。一方、アメリカ人ではLL型が32%。

これは何を意味するのか。

日本人はS遺伝子を多く持っているわけだが、実はこれほどまでにS遺伝子を持つ人の割合が多いのは、世界でも日本だけである。つまり世界一、不安になりやすい国民であるということができる。

例えば日本人は「島国だから」小心で保守的で皆と同じであろう、前例に倣おうとする、という解釈が長年、通用してきたようだが、この説明は妥当とはいえない。
島嶼国家であれば、世界を股にかけ、太陽の沈まない帝国を築き上げたかつてのイギリスや、人懐こく大胆な行動を恐れないフィリピンの人々の性質は説明がつかない。「S遺伝子を持った人が多数派なので」小心で保守的で前例に倣おうとする、という解釈の方が、科学的には自然である、ということになろう。

余談だが、アメリカ人のチャレンジ精神や大胆さを見習え!と、説教臭い紋切り型の日本人自虐論が根拠なく吐き散らされているのをしばしば見かけるが、遺伝子分布を見ればそれらの議論が極めてナンセンスで老害的なことが一目瞭然だろう。

アメリカの大学で行われたある調査によると、教授になった人に、「あなたは同僚の教授たちよりも優れていると思うか」と聞くと、なんと94%の人が「Yes」と答えたという。この自信の源がセロトニンといえるかもしれない。
日本の社会でこんな風に答える人がいたとしたら、新しいチャレンジやイノベーションをするどころか、周囲から袋叩きに遭い、とても出世など覚束ない状態に置かれてしまうだろう。

根拠のない日本人自虐論は、慎重で、前例をよく調査し、周囲と軋轢を起こさないように丁寧にふるまう日本人の多くが持つS遺伝子の特性を無視した自慰的ポエムといってよい。新しいチャレンジを!と他人に説く人は、そもそも自分が新しい言説を唱えていないことが多いようだ。だから日本はダメなんだ!と、どこかで聞いたような話のコピーを得意げにばら撒くのは、新しいチャレンジとは言わないし、イノベーションでもない。

(つづく)


2016年1月20日発売の中野信子さんの最新刊
「脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克」(文春新書)
是非ご注目ください。
http://www.amazon.co.jp/dp/4166610597

(終わり)


■3.宋文洲のTV出演のお知らせ

2016年1月24日(日)13:30~
読売テレビ「そこまで言って委員会NP」
http://www.ytv.co.jp/iinkai/
※放送エリアが限られます。下記からご確認いただけます。
http://www.ytv.co.jp/iinkai/area/

2016年1月24日(日)18:54~
BS朝日「いま世界は」
http://www.bs-asahi.co.jp/imasekaiwa/

(終わり)

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