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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第294号(2016.02.05)

企業の外交と国の外交

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1.企業の外交と国の外交(論長論短 No.261)
2.日本に長寿企業が多いのはなぜか――脳科学から見た日本人【後編】
  (脳科学者 中野信子さんの連載 最終回)


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■1.論長論短 No.261

企業の外交と国の外交
宋 文洲

先日、電気屋の店員さんの質問にびっくりしました。
「中国の携帯はスマートフォン化は進んでいるのですか?」
ほかの国ではガラケーが存在せず、殆どのユーザーが最初に持つ携帯がスマートフォンであることを知らなかったようです。

海外留学と海外進出が減り続け、内向きの思考パターンが蔓延している今、多くの方々は接触範囲が狭く、びっくりするような「情報」を持っています。
その「情報」は狭い生活圏や同じ環境を持つ日本のマスコミから来るので仕方がない側面もあります。

生活のうえでは困りませんが、国際ビジネスや外交となれば情報力の無さは致命的です。これは国内営業も同じなのですが、製品の性能や営業の熱意よりも、顧客のニーズ(事情、好み、悩みなど)を掴むことが最も重要なのです。

製造業の方々は未だに「良いものが売れる」と信じる方が多いのですが、「売れるものが良いもの」と言い続けるのは私の信念です。言葉遊びのようですが、徹底的な相違があります。前者は自分の願望を最重視し、後者は顧客の情報を重要視しているのです。

北京で生活していた5年間、よく日系企業と中国企業のトラブル処理に関わっていました。トラブルのほぼ全部は情報(つまり相手の考えや動き)の間違いに由来するのです。その間違いが溜まるとトラブルが起きるのです。

日中双方の企業内部に友人知人を持つ私からみれば最初はどちらも悪意はありませんでした。しかし、相違が拡大しているうちにお互いが相手に嫌悪感を持ち始めて悪意を帯びた言動が増えて行くのです。それがやがて破局に繋がるのです。

日本企業側の最大の問題は情報が取れないことです。情報チャネルが少ないうえ、相手の内部に友人、つまり本当のことを教えてくれるパイプを持たないのです。言葉の壁も厚く、間接情報に担当者の個人的感情と想像も入れて上司に報告するのです。外部からの情報が少ないのに内部の会議がやたら多く、主観交じりの伝言ゲームで「情報」を確定していくのです。

たまに日中間のトップ会談も有りますが、私が知っている限り日本のトップはトップ会談でトラブルの議論を避ける傾向が強いのです。本来、これこそ破局を避ける最後のチャンスですが、欧米での経験を持つような日本の方々もこれを避けたがるのです。

民主党政権の尖閣諸島(中国名、釣魚島)の「国有化」を発表した際、私は北京に居ました。あるパーティで日本大使館の要人が私の隣に座っていました。
「宋さんは政府高官に知人はいませんか。日本政府は悪意があるのではなく、国有化の形にしたほうが右翼の上陸を防げるので中国にとってもよいはずだと伝えてもらえませんか。」と。

この時、私は絶望感を覚えました。日中政府間のパイプの無さと詰めの甘さに絶望を感じました。まさに上手く行っていない合弁企業のトラブルとまったく同じパターンです。

先週、当時のヒラリー元国務長官のメールが公開されました。その中に尖閣問題に関するキャンベル国務次官の報告メールがありました。
「私は日本政府と佐々江氏に北京との協議と照会を求めました・・・佐々江氏は中国政府は確かにこの計画の必要性を認識しており、最終的に受け入れると言っている。私には自信がない。」

国交正常化当時から慎重に扱ってきた問題だけに日本の佐々江外務次官はなぜこんなにも自信を持っていたのかは不思議ですが、私が知っている限り、日本の外務当局にはある伝言ゲームが存在していました。「中国要人のT氏が了解した」という伝言ゲームです。あやふやな伝言に個人の主観を足した典型的な情報収集力欠如による失敗です。(ちなみにT氏は日本外交の古株ですが、当時は既に権力の中心から外れていました)

日本が日本の国益に沿って行動するのは当然です。中国と国益がぶつかる場合、私が日本の立場を批判しても説得力がありません。しかし、間違った情報を使った判断は日本の国益をも損なうのでやめてもらいたいと思います。

年輩の方はご存知ですが、昔、日本では企業のセールス活動は「営業」ではなく「外交」と呼んでいました。聞いた時、素晴らしい表現だと思いました。
企業の外交も国の外交と同じ道理です。「彼を知り己を知る」ことは基本中の基本です。

(終わり)

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■2.脳科学者 中野信子さんの連載 最終回

日本に長寿企業が多いのはなぜか――脳科学から見た日本人【後編】
中野 信子

※前編・中編は下記からご覧いただけます。
【前編はこちら】 / 【中編はこちら】

一方、L型遺伝子の人の割合が世界一なのはどの国だろうか。

現時点でデータのある国の中では、南アフリカだ。自分の力だけでのし上がらなければならない、という環境圧力が高く、不安を強く感じる人は遺伝子を残しにくかったのだろう。さらに、ダイヤモンドを掘り当てようと、一獲千金を夢見る人たちが集まったからかもしれない。

ただし、南アフリカにも少数派ながらセロトニントランスポーターの少ない人が存在する。そういった人たちが生き延びられる環境も、局所的にはあるのだろう。

さて、慎重でていねいな振る舞いをするのはよいが、そういうあり方に飽き飽きしていて、どうにかして、そのセロトニントランスポーターを増やすことはできないのだろうか、と思う人もいるかもしれない。その人の持っている遺伝子を変えることはできないが、セロトニンそのものをある程度、増やすことはできる。アミノ酸やトリプトファンを含む食べ物を摂取するといい。

どんな食べ物に含まれているのか。代表的なものは、赤身の肉、マグロ、レバー、ピーナッツなど。しかし、その効果にも上限はある。新しい事業を行うのはトライアル&エラーの連続なので、失敗を恐れる人には、正直なところ不利な行為といえる。

どうしても新しいことをしなければならない場合、できるだけ失敗しても心の痛みを感じにくい環境を工夫してつくり、積極的にトライできる機会を持つのが最善の方法だといえるだろう。

日本人のセロトニントランスポーターの数が、遺伝的に少ない理由として考えられるのは、伝統的に重農主義であり、災害の多い国であったこと。
共同体で生活することが、生き延びるために必要な環境だったことが大きい。
共同体内では、慎重で、突出しない生き方が遺伝子を残すのに有利に働く。

しかしながら、共同体の維持にとって最大のリスク要因となるのは、協力行動を乱す、皆の努力の上にタダ乗りをする者の存在だ。そのため「リスク要因となる人を排除する」能力が発達した。これは、裏切者検出モジュールと呼ばれる。

セロトニントランスポーター遺伝子S型は、俗称"不安遺伝子"とも呼ばれるが、リスク要因の検出モジュールを構成していると考えられる。多くの日本人が不安遺伝子を保持している理由は、ここにあるといえそうだ。

この能力をいかんなく発揮した結果、日本では共同体=企業が長続きする、という風土が整った、というわけだ。

S型遺伝子はまた、不条理なことを強要されると後先考えずにキレてリベンジしようとしてしまう、という行動にもつながる、という報告が他の研究グループからなされている。第二次世界大戦前夜の日本の空気は、もしかしたら、そういうものだったのかもしれない。

ある国民の持つ遺伝子の割合は、数十年では大きく変化することはない。
これこそ、注意しなければならないポイントであり、人間は、平和を希求しているようでありながら、放っておけば勝手に戦争をはじめてしまう動物だ。
だからこそ、一人一人が、気を付けていく必要がある。この問題をめぐる議論は、文春新書からの最新刊『脳・戦争・ナショナリズム』に詳述した。
http://www.amazon.co.jp/dp/4166610597

世界でも類をみない、長寿企業の王国・日本。たとえば電気や自動車など、日本の製品は壊れにくいと世界で認められている。壊れにくい製品を作ることができるのは、あらかじめリスク要因を見つけて、対処する能力があるからだ。

イノベーションができない・・・、というが、S遺伝子を持った"不安症"ならではの日本人の能力を十分に発揮できる場を、世界で見つけることは十分可能だ。国内外を問わず、「保守的であること」が生き延びるのに有利な場を探し、あるいは創造し、繊細で慎重な振る舞いが光る逸材として、日本人がどんどんで活躍していってほしいと心から願う。

(終わり)


2016年1月20日発売の中野信子さんの最新刊
「脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克」(文春新書)
是非ご注目ください。
http://www.amazon.co.jp/dp/4166610597

(終わり)

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