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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第310号(2016.09.16)

娘の質問に答えて

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1.娘の質問に答えて(論長論短 No.277)
2.ベンチャーの聖地はシリコンバレーから中国へ
 (Yo-ren Limited CEO 金田修・新連載 第1回)


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■1.論長論短 No.277

娘の質問に答えて
宋 文洲

今年から私の四人の子供全員が米国の高校や中学校で学ぶことになりました。
暇になった私達夫婦は、旅行を兼ねて子供たちを訪ねることにしました。

高三の長女を車に乗せて買い物に行っていた時です。後部座席で宿題をしていた彼女が突然「パパ、正義についてどう思いますか?」と聞いてきました。
どうも学校の宿題が某哲学者の本を読んで感想を書くことだったようです。
その哲学者は「金銭や権力から独立した普遍的な正義が存在する」と主張しています。

普段から正義についてまじめに考えたことはないのですが、「普遍的な正義が存在する」との言葉に自分の神経が強く刺激され、とうとう子供に熱く語る羽目になりました。

「その哲学者はきっと苦労したことのない人か、経験の浅い若者だと思う。
パパはいろいろな国のいろいろな文化背景や宗教を持つ人と会って、彼らはそれぞれ自分の正義感を持つことを知っている。個人的に付き合うと滅多に悪い人はいないが、同じ問題に対して自分の正義感から出した結論はまるで違う。
つまり、現実としては普遍的な正義は存在しない。人々はよく自分の正義こそ普遍性があると信じたがる。」

「正義感が強いほどタチが悪い場合がよくある。他人のことを否定し、現実や事実を無視する、あるいは自分の信念に沿うように現実と事実を解釈する。」

「例えば今進行中の米国の大統領選挙。クリントンとトランプに対して大半の米国人が反感を持っているのにも関わらず、この二人のどちらかを大統領にしなければならない。米国の政治システムは世界で最も進んだシステムであるかのように、米国のエリートは信じているが、それは米国が一番強く一番豊かだから、そう信じられてきただけだ。戦後の歴代米国大統領が、その米国の民主主義が世界にとって普遍的な正義だと思い込んで、その政治システムが合わない国々にも強引に押し付けた結果、イラクやシリアの悲劇が起きている。」

「パパからみれば、正義でも悪でも道具に過ぎず、目的ではない。人々が生活の中で正義を考えた場面は少ないはず。豊かな生活をすることが最も重要な目的だろう。自由があって貧しい生活をするシステムは自由に貧乏になるシステムだ。
逆に豊かになることは、それなりの自由がないと無理である。したがって、目的は正義ではなく、豊かさに置いたほうがわかりやすい。豊かであることは物凄く発信力がある、豊かな社会のシステムが自然に魅力的になり、人々から『正義』であるように感じられるはず。」

「人々が権力者と戦うのは正義のためではない。より良い生活をするためだ。
戦って勝利した人々から新たなリーダーやシステムが誕生するが、多くの場合、結局同じことをするようになる。」

「米国人のほとんどは世界中から移民してきた人達だ。歴史も文化も中国や日本などと比較すればないに等しい。だから特殊な正義が多い。たとえば『銃所持の自由』はその一つの典型だ。政府も統治も行き届かないこの大地にやってきてインディアンから土地を奪って自分を守るのは自分だけであった。これは数千年前から土地をきちんと所有して丁寧に耕してきた中国では考えられない状況だ。
そんな特殊な略奪歴史に始まった銃所持は歴史の長い国から見れば明らかに異常であり、人々の生命を危険に晒すシステムだ。政府も警察も法廷も整備された今、個人が銃を所持しなくても、個人の権利は十分に守られる。廃止すればいいのに、米国の正義によって未だに強く守られている。」

「この正義は明らかに陳腐化したもので、ライフル協会などの利権団体の道具になっているが、米国に文句を言う国はいない。なぜならばこれまでの米国は一番豊かで強かったからだ。もし米国よりも豊かで強い国が現れたら、米国の正義の多くは疑われるだろう。」

「・・・あれ、もうそろそろ着くな。行きより帰りがえらい早かったな?」

「それはあなたが熱く語ったからよ・・・」(助手席にいる妻の声)

「・・・・・・」(後ろの娘が半分寝ている)

住宅街の玄関先にはトランプの看板が目立って、なぜかクリントンのものは見つかりません。

P.S.
以前の宋メール(第306号)で上海で創業した優秀な日本人経営者について触れたと思いますが、なんと!ご本人が宋メールに寄稿することに同意してくださいました。
この方は米国や中国の現場で多くの経験をしてきた日本の方です。
ぜひ彼の文章を楽しんでください。

(終わり)

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http://www.soubunshu.com/article/441947644.html
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■2.Yo-ren Limited CEO 金田修・新連載 第1回

ベンチャーの聖地はシリコンバレーから中国へ

金田 修

今回より連載をさせていただくことになりました。Yo-ren Limitedの金田です。
2011年から中国に移住し、翌年から上海でデジタルマーケティングの仕事を始めて5年目になります。スマホを中心に、デジタル媒体上での消費者向けブランドのマーケティングのお手伝いや、コンビニやスーパー向けの会員管理プログラムを提供しています。

宋さんのこちらのメルマガの読者には、中国在住の方も多いと思いますが、特に小売業向けのサービスでは、北京上海広州という一級都市のみならず、地方都市の動向も日々感じ取ることが出来ますので、そんな日々の事業や上海での生活を通じて感じることを共有していきたいと思います。

第一回の今日は、シリコンバレーだけがベンチャーの聖地だと思っている人は5年遅れているということを、数値で把握したいと思います。GDPは、2010年に中国が日本を追い抜いてから昨年末までの5年で2.6倍になりました。
このスピード感もすごいですが、IT領域のイノベーションの中心であるベンチャー市場の変化は更に何十倍ものスピードです。

僕が中国に来る直前まで日本のベンチャー投資市場は中国市場を凌駕していました。
それが、MoneyTree発表による昨年の実績では中国のベンチャー企業の資金調達金額は380億ドルと米国の6割超に達し、日本の30倍以上になりました。2016年はまだ途中ですが、上半期は前年以下と弱含んでいる米国市場に対して、中国が肩を並べる、追い越すという分析がなされています。2013年時点では中国は米国の15%に過ぎませんでしたから、あっという間にベンチャー市場は、米国一強時代から米中が二強になったわけです。

意味合いはなにか。もはやシリコンバレーに世界のイノベーションが集中していると考えるのは時代錯誤だということです。投資の妙味という観点では中国は時既に遅し、インドを始めとした新興市場にチャンスが有ると思いますが、 企業のR&Dの対象として北京・深センの動向を真剣にサーチしなければいけない時代だと思います。

そして、もう一つ。日本が抱える閉塞感の原因である人口と企業の双子の高齢化は、中国では少なくとも同時発生しそうにない、ということです。

実際に昨年のTechCrunchというベンチャーイベントに合わせて北京を訪れたAlphabet(Googleの持ち株会社)のエリック・シュミット会長は、世界のイノベーションのコアがシリコンバレーだけという時代は終わり、北京もボストン、テルアビブと並んで世界のイノベーション基地として重要な位置を占める、中国では一般消費者は使えないGoogleですら、中国市場でのR&Dを怠るつもりはないと発言しています。

今月頭のG20に合わせて、G20の諸外国はこのタイミングに合わせて様々なビジネスイベントをここ上海でも開催しており、僕もオーストラリアとフランスのイベントに参加しました。オーストラリアのイベントは、豪政府肝いりで始めた豪ベンチャーの世界チャレンジプロジェクトのキックオフでした。彼らが選定した世界のイノベーションの中心にある5拠点で成長可能性と資金調達の可能性を探る先として、上海が選ばれたそうです。

対する日本はどうでしょうか。サミットでは色々工夫を凝らして日本の良さを訴えようと努力したようですが、G20を機会と捉えて官民一体で中国にて何かを仕掛けたという話は聞きませんでした。上海にいる僕達がこうした日本の意識を変えていかないと行けないと改めて感じたイベントでした。

(つづく)

※データの多くはご本人にご了承を頂いて投資家として活躍されている蛯原健さんのブログを参考とさせて頂いています。

金田さんが創業したYo-ren LimitedのURLはこちら↓
http://yo-ren.com/ja/

(終わり)

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