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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第288号(2015.11.13)

デッカイ話ほど心に響かない


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1.デッカイ話ほど心に響かない(論長論短 No.255)
2.投票行動は操作できるか?――ニューロポリティクスへの招待【前編】
  (脳科学者 中野信子さんの新連載 第1回)


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■1.論長論短 No.255

デッカイ話ほど心に響かない
宋 文洲

深秋の寒い朝、私は田舎にある義理の親の家を訪ねました。小山の上にある一軒家の中は外よりも寒く感じました。「なぜ暖房をつけないのですか?」と聞くと厚着で我慢している義理の母親は「暖房代が高くなるから。」と言うのです。

「温かい部屋にいるのは必要最低限の生活ですから、お金のことを心配しないでください。」と説得すると、彼女は次のように言いました。
「日本は資源が無いから・・・。」

「きた!」と思いました。義理の母親が自分の理屈に権威性を付けたい時によく使う手です。私は遠慮なく「そんな偉そうなことを言わないでください。風邪で入院するほうがもっと無駄でしょう。」と反撃しました。

苦笑いする義理の母親の顔を見てちょっと反省して「もしお金に困るようなことがあれば私が必ず何とかするから。快適な老後を過ごしてもらうのは私達の願いです。」と説得しました。

サラリーマンの義理の父の給料で妻を立派に育ててくれた義理の母を尊敬しています。専業主婦の彼女のような「社会で活躍していない」とされる女性達の勤勉と節約に無数の家庭が支えられて来ました。その結果、日本が高度成長を成し遂げ、繁栄してきました。

しかし、彼女は日本のためではなく自分の家族への愛のために頑張ってきました。老後の今でも寒さを我慢しているのはお金のためであり、日本のためではないのです。子供達に少しでも迷惑をかけないように自分達の力で何とかしていこうとしているのです。暖房代がかからないのであれば、彼女は決して寒さを我慢することはありません。

政治家はともかくとして、一庶民が国家天下の大きな話を持ち出す時はだいたい自分の話に自信がない時です。義理の母は「寒さを我慢してお金を節約する」行動に自信がないからとっさに「日本は・・・」を持ち出したのです。

昨日、複数のベンチャー企業の社長のプレゼンテーションをみてきました。
ビジネスモデルが未熟なほど、儲からない会社ほど、話が大きいのです。
「日本を幸せにしたい」「社会を明るくしたい」などを聞いているとどんどん不快になっていきました。日本人がどう思うかは知りませんが、中国人の私にしてみれば共産党幹部の講和や中央テレビの放送を聞いているように感じて馬鹿にされた気分になります。

国を愛しているのであれば、心の中で思えばいいのです。彼女、彼氏と両親に向かって「好きです」「愛しています」と滅多に言わない連中が、知らない不確定多数に向かって愛を訴えて何の意味があるのでしょうか。それよりも実社会に何の問題があって、どのくらいの人がそれに困っていて、どのようにその問題を解決して、どれほどのビジネスを作れるかを、消費者の視点から実例を使いながら説明してほしかったです。

それに可能性を感じたら私は投資もするし、アドバイスもするし、パートナーや顧客も紹介したいと思います。しかし、天下国家の大きい言葉を並べているうちにプレゼン時間がなくなり、言う方も聞く方も損するだけです。

個人も企業家も同じ心理だと思います。自分に自信がない時に国家や天下の服装をまといたくなります。そろそろ年末年始のご挨拶も増える時期ですが、国家天下などのデッカイ話は他人に反論され難いが、人の心にまったく響かないことに留意していただきたいと思います。

P.S.
(今日はちょっと長め)

1. 日本人初の上場、中国で上海市場の乱高下をしり目に、中国のベンチャー企業が簡単に上場できる新三版市場は活気づいています。収益力や審査期間等の面が緩いのですが、金融当局とのコネや政治的判断が入らないため、既に4,000社ほどの企業が上場しており、株の売買も活発です。この市場に、私が中国で創業した会社が先週上場しました。

そのことは本当に大したことではありませんが、ここで報告したいのはその会社を切り盛りして成長させてきた社長は宮原さんという日本人の方です。
中国で現地企業を経営し上場させた日本人として彼は初のケースです。
大きな話をしない堅実素直な姿勢が現地の社員、顧客と審査当局に評価されての上場です。

2. 美人脳科学者、登場
デッカイ話をしないもう一人を紹介します。美人脳科学者の中野さんです。
「美人」は私の主観で付けたものでご本人の了承をいただいておりません。
テレビ番組のコメンテーターを務めた時に知り合いましたが、常にロジックや数字などの科学根拠に基づく奥行きの深いコメントに惹かれました。
ロジックや数字を用いると感情と感性がないとすぐ思いたくなる人が多いのですが、この二つのことがまったく矛盾せず、同一人物に豊かに存在することは、中野さんを知っていればよく分かります。

情熱を持っている経営者は腐るほどいますが、成功した経営者は必ず情熱と冷静さの両方を持ち合わせた経営者です。これから成功したい経営者の皆さん、ぜひ中野さんの話を勉強してほしいと思います。連載をお楽しみください。

(終わり)

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http://www.soubunshu.com/article/429468385.html
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今までの論長論短はこちら↓
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■2.脳科学者 中野信子さんの新連載 第1回

投票行動は操作できるか?――ニューロポリティクスへの招待【前編】
中野 信子

東アジアの不穏な空気が一向に晴れない。少しずつ緊張の度合いを増しているのではないかとさえ思える。日本は参院選、米国は大統領選、台湾は総統選と、明年は大きな動きを控えている。

多くの読者はきっと興味を持つだろうと思うが、もし脳科学を使ったとしたら、国民の投票行動を予測できるのだろうか?そして、それを操作することは可能なのだろうか?

もしそれができるとしたら、脳科学の知識を十分に得た政治家は、民主主義国家においても自在に戦争を誘導したり、自国に有利な条件で平和な国際関係を構築することが可能ということになる。

政治以外の分野では、1957年に、サブリミナル広告が購買行動を左右するとしてコカコーラ社が槍玉にあげられたことがあった。ただし、現在はこれがウソであったことがわかっている。しかし、この事件から49年経った2006年の時点で、アメリカ人の80%はこのサブリミナル広告に効果があったと信じていたという。
「無意識に思考を操作されてしまうのではないか」という恐怖感が大きいことを物語る事例と言える。

もちろん、脳科学は、人間のあらゆる行動を興味の対象とする学問だ。そして、脳科学者たちの一部は、投票行動を予測することも操作することも、理論的には可能、と考えているふしがある。こうした、政治に関連する人間の行動を、脳科学で読み解こうという研究分野を総称して、ニューロポリティクス、という。
日本語に訳して、神経政治学、というとティモシー・リアリー(*1)の印象が強すぎてどうも実用に供さないように聞こえてしまうかもしれないため、英語の音をそのまま日本語に移植した"ニューロポリティクス"といういい方のほうがいいだろう。

さて、誰が有利で、投票率はどの程度で、何が自陣に有利な行動なのか、脳科学でどれだけわかるのか?

アメリカは二大政党制が定着しているために日本よりも研究が進めやすい環境にある。保守とリベラルで脳の働きに違いがあるらしい、という記事が2007年、New York Timesに掲載されて議論を呼んだ(*2)。2007年といえば、オバマ氏が出馬した2008年の大統領選の前年であり、アメリカのみならず全世界のジャーナリストがアメリカの政治を注視した年だった。

下記リンクの図は、同記事に載った研究による、アメリカ人被験者の脳機能画像である。


オバマ氏とマケイン氏について、その動画と写真を被験者に見せながらfMRI画像を撮像した、という実験の結果である。それぞれの候補者について、被験者の脳の示した反応がこの図を見るとわかる。

左側がオバマ候補、右側がマケイン候補に対する有権者の反応である。
脳の図を見慣れていない人には見づらいかもしれないが、これは脳を右側から見たもので、図の左手が脳の後部、右手が脳の前部にあたる。
オバマ候補、マケイン候補とも、有権者の脳は後部が活性化しているが、ここは視覚野に当たるので、写真や動画を見ているのだから活性化して当然の部分なのだ。問題になるのは、それ以外の部分である。

しかしながら、視覚以外の領域――思考や感情を司る領域――にはあまり差がみられない。オバマ氏の方が若干、活動している領域が多いことはわかるが、どうも、有権者が口で言うほど、2人の候補に差があったとはいえないようだ。

一方、下記リンクの図はなかなか面白い。
ヒラリー・クリントン氏に対する脳の反応である。


左側が男性有権者の反応、右側が女性有権者の反応で、男女でヒラリー・クリントンに対する反応がかなり違うことが非常によくわかる。

活性化している部分は前頭葉の一部で、下前頭回(かぜんとうかい)という領域である。ここは、いわゆる「ミラーニューロン」と呼ばれる神経細胞があると言われている場所で、他者の模倣を通して、共感や協調に関わるとされている部位である。

ミラーニューロンというのは、自分ではない誰かの姿を見たとき、その人と同じような行動をまるで自分がやっているかのように、脳にその相手の脳の活動を写し取るための"転写装置"のような働きをしている神経細胞である。

ということを考えると、もしかしたら、ヒラリー・クリントン氏の写真を見せられた女性たちは、「自分も女性としてあんな風に輝きたい......」という願望を乗せながら、写真を眺めていたのかもしれない。この画像からは、そんな推測が成り立つ。

また、脳の反応はポジティブなものだけではなく、前帯状回という、痛みや不快感を感じていることを示す場所も同時に活性化していた。
このことから、彼女はあこがれの気持ちだけではなく、妬みや羨望も混ざった不快感を呼び起こす人でもあるということがわかる。

*1 「神経経済学」ティモシー・リアリー
*2 Iacoboni et al. This is your brain on politics. New York Times 2007

(後編につづく)

中野信子さんの最新刊「あなたの脳のしつけ方」(青春出版社刊)が10/31に発売されました。是非ご注目ください。

詳細はこちら↓
http://www.bigbenn.jp/20151109/1029/

(終わり)

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