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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第347号(2018.03.09)

アメリカ・リスクに鈍感な日本人

中国とのビジネスを議論する際によく使われるチャイナ・リスクという言葉。私はこの言葉に反感を覚えません。私たち中国人自身も自国の政策転換や政治変動によってビジネスが急に思いもよらないリスクに晒されることがよくあるからです。

当然、中国人ビジネスマンは米国や日本などの政治リスクにも敏感であり、いざという時のために常に回避の道を保持しています。これは世界中に散らばる中国人商人の共通点であり、アフガンやイラクやアフリカなど、あらゆるハイリスクな地域にもビジネスを展開できる遠因でもあるのです。

トランプ大統領が鉄鋼輸入制限を発表した際、中国の経済界はまるで関係ないような反応でした。もうすでに対策が終わっていたからです。昨年の米国の鉄鋼輸入に占める中国からの輸出はわずか2%(11位)です。これに対して日本は5%(7位)であり、韓国は10%(3位)であり、カナダは16%(1位)です。主な被害国は米国の「同盟国」たちです。

しかし、不思議なことに日本経済新聞を含む日本のマスコミはこの鉄鋼輸入制限を「中国を狙った」と書くのです。いったいどういう思考経路を通じてこのような面白い発想ができたのか分かりませんが、日本の政治家をはじめ、多くの日本人の米国への誤解、正確にいえば思い込みは相当激しいようです。

以前TPPについて見解を述べたように、ビジネスはあくまでも損得で判断するのであって好き嫌いで決めるものではありません。ルールがあっても損するようなルールに米国は従うわけがありません。加盟の国々にさらに市場開放するTPPは米国の貿易赤字削減にマイナスです。これについては経営者のトランプは弁護士のオバマよりはるかに分かっているのです。

「中国を包囲する戦略」だと日本の総理大臣がいくら頑張ってもトランプにとって何の説得力もありません。米国にとって中国はライバルではあるが、敵ではありません。ライバルを意識するあまり自分がTPP加盟国の貿易に包囲されては元も子もありません。貿易赤字を解消するには、中国とは一対一のさしであれば交渉できますが、TPPのような多角協定は交渉不可能です。

中国は数十年間にわたって米国との厳しい貿易摩擦を経験して来たので、単独交渉とリスク・ヘッジに慣れています。今回の米国鉄鋼輸入規制は明らかにWTOのルールに違反するのですが、中国には驚きの声はまったくありません。米国は自分に不利なルールは無視する傾向が強まりましたが、「アメリカ・ファースト」で当選したトランプにとってもはや当然なのです。トランプは当選前からWTOを批判しており、最近米国の通商代表もWTO批判を始めました。

今回、実際に米国の鉄鋼輸入制限に対して中国はどう反応したかというと、発表直後に中国の李克強総理が自動車関税をはじめとするいくつかの系列商品の関税引き下げを発表したのです。米国と真逆な姿勢を鮮明にしたのです。中国は米国との個々の貿易摩擦と関係なく自分の世界戦略を淡々とやっているだけなのです。米国の貿易はあくまでも双方に利益があることが前提なので、米国が不利だと思うならば好きなことをすればよいのです。米国にメリットがない貿易に中国も依存したくないのです。

中国の戦略は誰にも隠さないのです。政治や主義と関係なく、全世界を相手にしてビジネスを展開することです。過去米国がこれをグローバル化と称して政治体制とビジネスモデルの両方を推し進めてきましたが、不利になった今、逆方向に向き始めました。しかし、中国が目指すグローバル化は相互の経済メリットだけを基準にしています。全方位の貿易力こそ、米国を含む個別国との交渉力になるのです。米国市場に依存しながらの米国との交渉がどんな結果になるかは、日米のプラザ合意を見なくても分かるのです。

しかし、私がこんなことを言っても理解する人は最初から分かっていますし、理解できない人にいくら言っても無駄です。固定概念に縛られ結論ありきの日本人があまりにも多いからです。最近の統計では8割の日本人が米国に好感を持っているのですが、米国人の6割は中国が日本より重要だと言っているのです。

たぶん、日本人が感情で政策を決めるのに対して米国が重要度で政策を決めているのでしょう。これは日本も被害者であるにも関わらず「中国を狙った」という不可解な日本世論への解釈になるかもしれません。

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