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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第352号(2018.05.25)

人間は何のために働くのか

ボストンのサービスアパートに入居して二週間経ちましたが、全く落ち着きません。昨日までの三日間は5時間のフライトでユタ州に行って来ました。モノを思う余裕がないので宋メールを書けませんでした。

ちょうど週刊文春の連載が終わったのでそのご報告を兼ねて4月26日号に掲載れた「それでも社長になりたいあなたへ」の寄稿文を転載させてください。


人間は何のために働き、生きているのか――。この連載における大きなテーマでもありますが、「命があるから」と答えても誰も納得しないでしょう。

若い頃に私は「中国を変える」という夢を抱いた時期があります。実際、数カ月、北京で中央政界入りを探ってみました。しかしあまりにも汚い政界の実態を目の当たりにして、やっぱり経営に打ち込もうと思い直しました。このように一つの目標が消滅し、別の目標が生まれることもよくある。人生の目標と関係なく、人は働いて生きるのです。

今年二月のチベット旅行で、千キロ以上にわたり、五体投地をつづける青年と話しました。一年以上同じ動作を繰り返してきた彼の顔には希望と平和が満ちていました。漢民族のドライバーが彼の姿を見て、「この根性を商売に投入すれば大金持ちになれるのに」と言うと、観光ガイド役のチベット族の女の子から「あなたは可哀そうな人ですね」と冷たい目で見られていました。

三十代の頃のことですが、宗教で幸福感を得たいと思って、キリスト教を勉強したことがあります。ただ勉強すればするほど疑問が増えていく。そして神父さんから「宗教はまず信じてから理解するもの」と言われたとき「これは無理だ」と諦めました。私は頭で理解していないことを信じられないからです。

ただ私が事業でどん底状態のときに、神父さんの言葉が救ってくれました。

「航海で暴風雨に遭遇したときには、海に浮かぶ小瓶を作りなさい。そして、その中に入ってしっかりと蓋を閉めなさい。瓶の外は荒れていても内側には平和と陽光が溢れるでしょう」

人生には心の避難所が必要です。その避難所が宗教などの"既製品"でも、自ら編み出したものでも、それは自由です。

人間はチャンレンジすればするほど、その分、苦難も増えます。壁に向かってボールを強く投げれば、同じ力で跳ね返る「作用・反作用の原理」が働くのです。

立派な仕事をして周囲が羨むポジションにつく。経営者となり、会社や社員に大きな利益をもたらす。こうしたいい仕事をすればするほど、逆に人生の苦しみが生まれる。「それでも社長を目指す」皆さんには、このことをよく理解して欲しい。

私は最近よく妻と二人で旅行を楽しんでいますが、経営者時代は大勢の同志や部下に囲まれても、常に孤独感でいっぱいでした。

今は日々の予定が入っていなくても楽しく過ごせますが、かつては半年先まで予定が決められ、ロボットのように働いていました。そんな時代があったからこそ、今の状況がどれだけ恵まれているかが理解できます。

仕事の現場で恐れながら前進する。心配しながら着手する。失敗を前提に勝利を夢見る。そんな経験を繰り返しているうちに、人間は金銭や地位に頼らなくても自信をもって生きていけるようになります。また不思議なことに、金銭や地位は、無欲なときに向こうから勝手にやってくることが多いのです。

前回、「私は自由を得るために経営者をやめた」と書きました。ここでいう「自由」とは何度もチャレンジし、失敗を乗り越えて得られた心の自由です。皆さんも全力で仕事に打ち込み、「自由」を手にして欲しいと思います。

今回で連載はひとまず終了です。またどこかでお会いできる日を楽しみにしています。

(週刊文春4月26日号「それでも社長になりたいあなたへ」より転載)

宋のTwitterはこちら↓
http://twitter.com/sohbunshu

今までの論長論短はこちら↓
https://www.softbrain.co.jp/mailmaga/list.html

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