ページの先頭になります。

ページ内を移動するためのリンクです。

ここから本文になります。

宋文洲のメールマガジンバックナンバー第357号(2018.08.03)

5か月間の中国の変貌

5か月ぶりに北京に戻ってみると近所のローソンの商品がまた良くなっていました。特に弁当、サンドイッチ、飲み物、中華まん、唐揚げなどの食料品はどんどん良くなっています。カウンターにコーヒーメーカーも設置され、ボストンのコンビニよりよほど魅力的です。

昨年の中国の小売り規模は米国とほぼ等しくなりました。今年は米国を超えるでしょう。消費は何と言っても小売りです。これには統計の違いもなければ、偽造や水増しもあり得ないのです。製造コストの上昇で中国を撤退するメーカーがある一方、この消費市場を狙って参入してくる企業も確実に増えています。

これは日本企業だけの傾向ではありません。中国企業自身も中国社会の変化に適応するのに懸命です。技術レベルが低く環境に負担をかけ安い労働力を前提にした大量生産の企業はどんどん行き詰まっているのです。

先週、私の故郷である山東省の大手民営企業が倒産しました。石油化工、食品加工、国際貿易に観光旅行などの多角経営を展開し、創業社長は過去において山東省一位の資産家に数えられたことがあります。

銀行に勤める友人の話を聞くと中小企業の倒産が急増しています。直接の原因は政府の引き締め政策にあると言うのですが、本当の理由は利益率が低く利息を払えない企業体質にあるそうです。ただ、長年に渡って中国政府が過剰な流動性を提供し、時代に合わない企業を延命させてきましたが、昨年からやっと方針を転換しました。

上海株式市場の指数もこの5か月間に2割も下落し続け、先週は歴史的に低い2700ポイントを割った瞬間もありました。追い打ちをかけるように、米中貿易戦争が勃発し、投資家の心理はいっそう冷やされる事態になりました。

日本ではここ十年慣れ親しんでいる中国崩壊論は、今こそ説得力を帯びてきたと思うのですが、逆に今潜んでいるのは不思議なのです。

私はどう見るかと言うと、今やっと正常な状態に戻ったと思うのです。借金まみれの上、利益も出ないようなゾンビ企業の存続こそ、社会の活力を奪う元凶です。改革開放の荒波に乗って荒っぽいやり方で急成長を成し遂げた起業家の多くが60代を超えました。彼らの事業の多くは第一次産業と第二次産業に属し、先進国ではもうとっくに淘汰されているのです。彼らは地方政府と結託し住民や社員の不満を押さえ、公共財である土地や融資と税金の優遇を享受してきました。

建設ブームが終焉し、消費社会になりつつある中国では、これらの産業は急速に市場を失うのです。彼らにはより人件費の安い東南アジアに移転するか、統廃合するかの方法しかありませんが、保守的な人たちはその痛みを拒否し、ゾンビ企業になってしまいます。

私が米中貿易戦争を歓迎するのは貿易戦争のショックで中国の保守派に現状維持を放棄させ、国内の改革を促す役割があるからです。いつまでも改革開放の初期のやり方で通せるとの思い込みはほかではなく中国をダメにするのです。もちろん、「America first」のトランプ大統領が中国のために貿易戦争を始めたとは思いませんが。

結局、最後の最後は競争力が勝負です。日本車とドイツ車にいくら関税をかけても米国車が売れないのと同様、貿易戦争がなくても、私の故郷から石油加工工場やセメント工場は消えていくのです。ならば早く消えたほうが社会コストが安いのです。

ページの終わりになります。

このページの上部へ戻ります。