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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第314号(2016.11.11)

トランプ当選の本当の意味

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1.トランプ当選の本当の意味(論長論短 No.281)
2.中国の債務問題の本当の問題
 (Yo-ren Limited CEO 金田修・連載 第5回)


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■1.論長論短 No.281

トランプ当選の本当の意味
宋 文洲

トランプが勝つのか、ヒラリーが勝つのか、私には分かりませんでしたが、私が米国人ならばトランプに投票したに違いありません。6か月前、私は宋メールでトランプ氏が当選すべきだと書きましたが、今読んでも当時の内容を変更する必要は全くありません。トランプが勝った後に「俺も思いました」と見苦しい言い訳をする専門家が多い中、半年前の宋メールをぜひ皆さん読んでみてください。

「トランプは既に勝った」

当時、一部の読者は「宋さんは中国人だから米国と日本に不利な結果を望んでいるだけ」と批判がありましたが、正直、自分の願望で推測するとだいたい外れます。私は投資をする際、自分の都合で予想すると負けて損してしまうのでそんな馬鹿なことをしません。予想の精度を上げるため、客観的に相手の立場を理解し、相手の生活環境に触れた上、相手の心情を想像する努力をしているからです。

今回、安倍総理はまた改めて思い込みの激しい人だとばれました。9月の時点でヒラリーに会い、敢えてトランプもヒラリーも反対のTPPの必要性を強調しました。
これは明らかにヒラリーに以心伝心のつもりでメッセージを送っています:
「あなたは本心ではTPP賛成だと分かっていますよ。今選挙中で本音が言えないでしょうが、その代わりに私が多くの国民の反対を押し切ってリードして承認させますから大統領になったら恩義を忘れないでくださいね。」

投票日5日前の3日に、首相官邸が共同通信に「2月にもクリントン大統領と首脳会談を検討」と発表させたほどの自信ぶりです。安倍総理にしてみればヒラリーが勝つに違いない、マスコミや議会を動員すれば反対を簡単に封じ込めます。
いったん決めてしまえば国民はすぐ忘れるから自分の思い込みでどんどん進めればいいのでしょう。

主観と思い込みで市場と世界を予測し、それに基づいて政策を立案し、情勢が変化しても修正しない安倍総理の姿勢はまさに戦前の陸軍組織のくせです。
勝手に決めた2%のインフレ率は、5回延期してもまだ誤りを認めず、政策の見直しもしません。外交上の思い込みによる損害もどんどん拡大しているのですが、将来にわたって認めることはないでしょう。

ソビエトという脅威が崩壊後、「勝った!」と成り上がった米国のエリート達が民主主義をペットのように飼い始めました。米国型の民主主義をまるで永久不滅の魔法のようにかざし自国民を洗脳し、他国民を威圧してきました。フィリピン大統領が言っていることに多くのフィリピン国民が共鳴したように、トランプが言っていることに多くの米国人が共鳴したのです。国民大半数の選択を「トランプ・リスク」と呼んでしまう米国のエリート達は崩壊前のソビエトの官僚に見えてしまうのです。

エリートだけではありません。今回は現役大統領オバマ夫婦や米国大法官やローマ教皇までも中立の原則を放棄し、ヒラリー擁護とトランプ非難に参加しました。彼らはこぞって国民の選択を変えようとしたのです。

日本のマスコミは米国マスコミ以上に既得権益にしがみつき、権力志向なので米国マスコミ以上に世論作りに熱心なのです。また残念ながら日本のマスコミは日本国民の人の良さを利用してかなりの高い確率で世論操作に成功してきました。
だから今回の米国マスコミの成功を信じて止まなかったのでしょう。マスコミと一体になって操作してきた安倍総理もヒラリーと米国マスコミの成功を信じて止まなかったでしょう。

今日の宋メールも半年前の宋メールと同じ結論で結びたいと思います。

「米国民のこの変化は、同様に大手企業と大手マスコミに頼る安倍政権に影響を及ぼさない訳がありません。」

P.S.
私は単に感情的に安倍総理を批判しているわけではありません。
実際に客観的に日本人の立場にたって事実に基づいて判断しているのです。

例えば、日本政府がTPPに拘っている間に中国は12カ国の参加国の中の9カ国とすでにFTAを結んでいます。アメリカはTPPで中国をリードさせないというのですが、中国はあくまでも一軒ずつ相手国との損得勘定を確認しあっただけでした。
結局、8年もかけて最後に米国自身がTPPを拒絶しました。

日本はそんなアメリカの他力に期待し、独自のFTAの交渉努力もせず、大切な時間と貿易チャンスを浪費して来ました。

国家の指導者はあくまでも企業の社長と同じく自力で道を切り開く覚悟を持たなければならないです。そしてあくまでも自分が得するかしないかで判断しなければならないのです。誰かの仲間と一緒にやれば儲かるとか誰かについて行けば儲かるとかという発想は素人であり最後に損することが多いのです。

商売とはあくまでも一対一の商談で積み上げるのです。TPPに入れば日本は自動的に輸出が増えるとの発想は業界団体に入れば自動的に売り上げが伸びるとの思い込みと同じで、甘いのです。

10年もかけて契約書を議論する暇があれば、一軒でも多くのお客様を訪問した方が結果的に売り上げが伸びるのです。

(終わり)

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■2.Yo-ren Limited CEO 金田修・連載 第5回

中国の債務問題の本当の問題

金田 修

前回はシェアエコノミーを中心とした「やってみなはれ」的起業家精神についてお話をさせていただきましたが、第5回はそんな中国が抱える闇のお話をしたいと思います。

今年9月にBIS(国際決済銀行)が、先月にはIMFが中国の債務問題について警鐘を鳴らしました。僕はマクロの専門家ではありませんが、真の問題は何か、自分のビジネスにどういう意味があるのか、シンガポール人の友人、APS(ヘッジファンド)のストラテジストでもあるWy-en Yipの力も借りながら整理してみました。

まず、BISは9月に、金融システム危機の警戒指標の一つ、民間債務のGDPに対する比率のトレンドに対するギャップが、中国では30%に達しているとして警告しました。この数値は10%を超えると警戒水域であり、日本のバブル崩壊前のピークが23.7%、1997年にタイが金融危機に陥った時が35.7%でした。
同じ分析で現在13%を超える国・地域はなかったことから、中国が突出して危険水域にいると言えそうです。

先月のIMFの報告(Working Paper)は、民間債務のGDPに対する比率が中国で200%を超え、その急激さと絶対水準において、2012年の欧州危機のトリガー地点でのスペインとバブル崩壊地点での日本を超えた、というものです。
こちらも過去事例の経験則から、非常に危険な水域に達していると分析しています。

過剰債務の問題は、トリガーイベントが起こった後に様々な形で長期の不況を引き起こします。日本では不良債権問題から信用収縮、ひいては「失われた20年」に繋がり、タイでは通貨暴落、スペインではEUに資金支援を頼った結果、監督下に置かれ金融機関の整理と財政規律の強化を迫られ、いずれの国でも深刻な経済不況を引き起こしました。

現在中国では家計の債務は同水準の発展途上国、中進国と同レベルの水準でコントロールされているので、本質的なこの問題の解決策としては、異常に膨れ上がった企業債務の効率を上げる、つまり資本と労働の生産性を上げる構造改革に取り組むしかありません。問題は、中国にはまだ余力がたっぷりあるということです。

中国政府は「GDPはフローで、債務はストックだから、水準自体を話しても意味が無い」というような説明をしていますが、債務の平均利子率が5%だとしても、GDPが毎年10%成長しなければ追加的な価値で債務を払えないわけで、フロー同士の計算に置き換えられる話です。それが言い訳に過ぎないことは当局もよく分かっていると思います。

しかしながら、痛みの伴う改革をしなくても、外貨準備の水準、資本規制による資本逃避に対するコントロール力、また日本を筆頭に緩和競争中の他国に比べれば4.35%と高い基準の中銀貸出利子率、そしてデフレするPPI(生産者物価指数)を見れば金融政策の余地はまだまだ広く残されています。

加えて中国の税収は、景気変動の少ない間接税が中心で安定成長しており、財政赤字は既にこの1年半顕著に増加しつつありますが、それでもGDP比率の3%にとどまる形で設計されています。従って財政出動の余地は実質財政破綻している日本は例外としてもドイツを除く主要先進国よりは余力があると考えられます。

ちなみにIMFの同報告でも最後にGDP成長のシナリオアナリシスがありますが、課題放置したケースであっても2021年におけるGDP成長率予測が3.5~5.5%と日本からみたら眩しすぎる数字です。

つまり、日本のマスコミの多くが喧伝するように「積み上がっていく中国の債務問題は大問題であり、いずれ破綻する」という話は長期的視点では正しく、中国側で主張されている「債務問題は対処可能、恐るに足らず」という話は中期的に正しい、ということが最大の問題だと思います。

現時点で既に日本のバブル、スペインのユーロ危機のトリガー並の債務水準に達しているのにもかかわらず、あとどれだけ上昇してから破綻するかが全く予想できない、つまりどれだけの混乱が起こるか予想すら出来ないということが最大の危機なのだと僕は思います。

中国での自分の事業にとっての意味合いですが、理論にはそぐわないかもしれませんが、「1. 出来る限り借り入れに頼らない財務戦略を組むこと、2. 奢侈品ではなく、日々の生活の向上に資する事業に取り組むこと」が、危機がいつか来ることを想定しながらも現在の成長と高揚の波に乗り遅れないためのポイントだと整理しました。

(つづく)

金田さんが創業したYo-ren LimitedのURLはこちら↓
http://yo-ren.com/ja/

(終わり)

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