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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第339号(2017.11.10)

形から入るな

「最近創業したいという社員が多くて困る」と経営者の友人が漏らしたので、私がすぐ「良いことだよ。創業したい社員はモチベーションが高く、所属している間は貢献するし、辞めてからも会社と提携するから良いことだよ。」と答えました。

しかし、よく聞くと彼は社員達の創業に反対しているのではなく、やることも決めていないのに創業を逃げ道として現在の仕事から逃げたい社員がいることに嫌気が刺したようです。

それなら私も大いに彼に賛成です。ベンチャー創業を応援してきた自分としてはゼロ金利に甘えて安易にベンチャー資金を得ようとしている人は好きではありません。本来ベンチャー経営者の一番の支えはお金ではなく、どうしてもやりたいことがあるという欲望です。お金はそのために工夫するものであり、後でついてくるものです。

昔、ベンチャー企業が大手企業を退職した管理職を面接する際に「何ができるか」と聞くと「部長ができる」とよく答えられました。何をしたいか、何ができるかではなく、「部長」を目的することで笑われましたが、「何をしたいか」が分からずに目的を「ベンチャー社長」という人は彼らと同じではありませんか。

私が工学博士号をとっても百人もいない中小企業に入った理由は、その会社の社長は私がやりたいことをやらせてくれると約束したからです。実際に部下をくれて土木構造解析ソフトの開発をやらせてくれました。3か月後にその会社は倒産しましたが、社長に裏切られたと思ったことは一度もありません。やりたいことをやらせてくれたその心に今も感謝しています。

私はその後も開発をやらせてくれる会社を探してみましたが、どこも「教育を受けてから」とか「わが社の文化に慣れてから」とかの細かいことを言うので、自分で開発せざるを得なかったのです。「石の上も三年」とか、「5年目から一人前」とかは信じられません。私は5年目からベンチャー資金を受け入れて上場を検討し始めました。

ベンチャーだけではない、最近ではグローバルも形から入るケースが多いのです。「どこの国で何をしたいか」はすっかり抜けてしまうのです。

数年前から日本の本社で英語を公用語にする会社が出てきました。今はどうなっているかは分かりませんが、これは典型的な形だけのグローバル化です。どこの国から事業をスタートしたいかを決めてその国で通用する地元の人材を採用したほうがよほど早いのです。なぜ関係のない日本本社で関係のない社員達が不慣れの英語で日本の業務をこなす必要があるのでしょうか。

アリババの時価総額はアマゾンを超えています。アマゾンと違う仕組みで世界中に市場を広げています。英語を公用語にすれば中国の社員に迷惑ですし、海外事業に何のプラスにもなりません。馬さんは進出先の国で他の競合企業よりも高い年収と権限を渡すことによってトップレベルの人材を確保し、事業を拡大してきました。それぞれの国には特殊な事情があるからです。

クレジットカードの普及率が低い中国で、アリババは10年前からカードを抜き、銀行抜きのネット支払いの仕組み、アリペイを編み出しました。その後WeChatペイなども普及し、中国ではカードだけではなく、現金さえも消えつつあります。

他の国でそれが良いかどうかは別として中国でビジネスを拡大したいのであれば、これを利用すればいいのに、日本の某ネット販売大手が「クレジットカードこそグローバルだ」と頑として拒否したため、中国市場からシェアを取れず、容赦なく撤退に追い込まれました。

形から入る人は本質を掴めません。結果として形で終わってしまうのです。形とは既成概念であり、多くの場合は成功パターンの真似に過ぎません。本当は他にも選択肢があるのに形に拘るとそれが見えなくなってしまうのです。

中身(本質)から着手し、欠点やミスを素早く修正しているうちに独自の形が段々見えてきます。これが創業やイノベーションの過程であり「形から入るな」の意味です。

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