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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第344号(2018.01.26)

北京の空気で思うこと

「北京の空気が本当に良くなったよ。」中国人よりも中国駐在の日本人からよく聞くようになったのは昨年の後半。たぶん、中国人よりも駐在員の方々が何倍も空気のことを気にかけていたのでしょうが、その実態を体験するのが楽しみでした。

もう10日以上北京に居ますが、過去数年に経験したような酷い汚染は一度もありませんでした。たまに明らかに東京より淀んだ空気の時はありますが、数時間しか持たず、すぐ青い空が顔を見せます。

22歳まで中国で生まれ育った自分としては、中国人のマナーや町の乱雑さには殆どストレスを感じず、逆に開放感さえを覚えます。しかし、青空が見えない淀んだ空気には気持ちまでも感染され、落ち込むばかりでした。

「空気さえよければ、北京の街はいい街だよね」とよく妻と話していましたが、同時に「私たちが歳を取った20年後には良くなるかもしれない」と諦めていました。それが数年でこんなに綺麗な空気に戻ったとは、正直大変ショックです。

「北京の空気が急に良くなった」ことは中国よりもニューヨークタイムズなどの海外メディアに取り上げられました。たぶん、情報として報道するのではなく、「不可能」だと思ったことが急に現実になったことへの好奇心だと思うのです。

科学者の知人に聞くとやはり中国の体制でしかできないような、西側からみれば乱暴なやり方でこの青空を取り戻したようです。例えば、石炭を使う工場や郊外農民のストーブを一年以内に全部禁止にしたことや、出稼ぎ農民が住み付く簡易平家の取り壊しなど、西側の国々では絶対一年では対応不可能なことばかりです。

廃業に追い込まれた労働者の再就職は保証のないまま、工場がなくなりました。無料の電気ストーブや電気コンロが配布されたものの、使い方を間違って事故が頻発しました。ガスの急速な強制使用の結果、天然ガスの価格が2倍以上に跳ね上がりました。長年「無許可」の家で生活してきた出稼ぎ家族の子供は生まれ育った故郷から追い出されたのです。

北京市民、特に中産階級と有識者たちは被害者たちに同情を示し、当局に抗議したため、一部緩和策が取られましたが、その分、空気が少し悪い方に戻ったという皮肉の結果になったそうです。結局、北京の空気が良くなった今、被害者への同情はすっかり薄れてしまい、北京市民および駐在の外国人は総じて喜んでいます。もちろん、私もその一人です。

被害者は立場が弱い人々だけではありません。昨年、北京市の新車登録許可において、ガソリン車が6万台に対して、EV車は8万台でした。行政と税制の両面から2030年までに実質的にガソリン車を無くす政策を打ち出しています。車メーカーやその関連産業も過去の資産と投資の不良化に直面するのです。

「損失は確実で、利益は不確実」これは変革の常であるため、変革を躊躇する人が多いのです。だからといって変革しないでいると全部失ってしまう危険性があるため、中間手法としてよく採られるのは一部の場所で一部の資産を使って実験を行うことです。

鄧小平が改革開放を始めた時、誰も貧乏脱出の方法を知りませんでした。深センを特区にして豊かになる方法を探った上で、中国全体が特区に近付くことで経済の急速な発展を成し遂げましたが、空気対策の特区はまず北京と上海を選んだ模様です。ここで一度成功可能であることを証明すれば、中国全体の空気改善も時間の問題でしょう。

「やればできる」、「やればできた」。経営もそのような体験を通じて社員全体のモチベーションをあげることが可能です。「ガンバレ」「モチベーションを上げろ」などの精神論に頼ることで実際に社員のモチベーションを上げた会社を見たことがありません。却って口先文化を助長してしまうのです。

「私が考えられる最も良いシナリオよりも今の中国は良くなっている。」中国の体制に常に批判的な中国人の友人と会食した時の彼の感想です。「中国が崩壊する」と予言する日本の評論家だけではなく、我々中国人も今の中国の進化速度を予測できた人はいないと思います。

この地球では、進化した動物は変化を予想した動物ではなく、変化に対応できた動物です。

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