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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第350号(2018.04.20)

失礼な「働き方改革」法案

昨日、証明書類が必要になって北京にいる妹にお願いしました。すると1時間半後に「取ってきた」と言うのです。「今日は土曜日じゃないの?」と言うと「役所は土日もやっているのよ。兄さん知らなかったのね。」と言われました。

そう言えば、中国では銀行も土日営業しています。「日本の銀行は3時まで」と言うと中国人は目が点になります。夫婦が共に働く中国では、行政サービスや金融サービスは仕事時間外に受けるのが当たり前です。

日本の国会で大騒ぎしている働き方改革法案。この話を聞くたびに不快になるのはなぜ個人の働き方を法律で決めてもらわないといけないのかと思うからです。与党と経営者団体がやるべきことは社員が働き方を決める権利を尊重することです。自由な労働市場に基づきより良いサービスを規制緩和と経営改革を通じて実現することです。働き方は生き方の重要な部分であるため、法律で働き方を決めることは生き方を法律化するようなものです。

夕方や土日にも住民サービスを受けることは、公務員や民間人の総労働時間を増やさずに実現することが可能です。しかし、社員がいくら働き方を変えてもしょせん、規制と経営の下で行われた「戦闘行為」です。兵隊がいくら勇敢に犠牲を払っても大本営と司令達が改革を拒否すれば無駄死にが増えるだけです。

実は働く社員の一人一人は必死です。自分の家族を守るために少しでも収入を改善しようと時計の針を見ながら残業代を計算する父親の姿が目に浮かびます。しかし、彼らは兼業できない、転職しにくいから、一つの会社に媚びを売って忖度し、他に通用しない社畜に成り下がるしかないのです。だから安い残業代を狙って、少しでも収入が良くなるように頑張っています。

本当のことを言えば、彼らが好きなだけ兼業できるならば、何も同じ会社でわずかな残業代を稼ぐ必要はないのです。正々堂々と他のところで気分転換しながら勉強しながら稼げばいいのです。しかし、政権のために働き方改革を宣伝する大手マスコミのサラリーマンに聞いてみれば分かるように、兼業を許す大手マスコミがどこにありますか。規定上できても運用上不可能にしている大手も出てきましたが、正規と非正規労働の格差がこれだけ大きくなれば、非正規に成り下がらないように、必死に忖度しないサラリーマンはいないのです。

結局、働き方改革は社員を楽にする法案ではなく、経営者を楽にする法案なのです。そして当局や経営者側に立つ既得権益者たちがその法案に「働き方改革」という失礼なタイトルをつけて国会で通そうとするのです。先日、データ不正との理由でこの法案の通過を放棄された時に、経営団体の代表たちはこぞって残念を表明したことが象徴的でした。働き手のためのものであれば、労働者たちが反対するはずです。この法案は羊の頭を掲げて犬の肉を売る法案なのです。

私は左翼と思われるかもしれませんが、間違いなく保守なのです。現役の時から自由経済と経営改革を信じて止まない経営者でした。私は日本で最初に残業を制限した経営者だったかもしれません。サービス残業を最も早く厳しく批判した経営者だったと思います。

本当の進歩は社員の労働強度を減らしながら、収入を維持することです。あるいは同じ労働強度を維持しながら、社員の収入を上げることです。「週休7日が幸せか」と過労死遺族に問い詰める飲食産業の経営者議員。これは「働き方改革」の本質を象徴する一幕です。週休7日を求める日本の社員を見たことはありませんが、構造改革と経営改革が遅れているくせに毎日社員に勤勉と頑張りを求める経営者を私はたくさん知っています。

同じ飲食産業でも先日深センで社員が楽になって顧客が満足する風景を見ました。着席するとウェーターがやってきてテーブルに置いてある二次元バーコードを指して「ご注文はこちらからどうぞ。」と言った後、20分間の砂時計をひっくり返して「上の砂がなくなるまで食事が揃わない場合、食事が無料になります。」と言って去りました。

二次元バーコードを携帯でスキャンして写真付きのメニューから食事を注文し、食事後にそのまま携帯で支払うのです。注文取りなし、レジなしです。社員がやることはクレーム処理や老人や子供の手伝いです。

この現場から分かるように、規制緩和を通じて金融改革をした上、経営者が技術投資と経営改革を敢行しない限り、上述のようなサービスは出現しません。「週休7日が幸せか」という誰も望んでいない仮説を立てる暇と、「働き方改革」を法制化する暇があるなら、自分たちの改革に早く着手したほうが自他ともに良くなりますよ。

宋のTwitterはこちら↓
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