ページの先頭になります。

ページ内を移動するためのリンクです。

ここから本文になります。

宋文洲のメールマガジンバックナンバー第364号(2018.11.09)

トランプ氏のマーケティング / 宋メールの今後

(1)トランプ氏のマーケティング

米国の中間選挙の結果にコメントする立場にありませんが、トランプ氏の奮闘ぶりにひどく感心させられました。あの歳であれだけの演説をこなす姿に無条件に感動を覚えました。

トランプ氏の中間選挙に向けた最初の応援演説はテキサスで行われ、かつての大統領選ライバルのクルーズ氏を再選させるためでした。その時、私は偶然にもロサンゼルスのホテルで暇にしていたため、その演説の中継を最後まで見ました。

以前大統領選の際に、私がトランプ氏は大統領候補としてヒラリー氏より優れていると思ったのは、彼の演説を米国で直に聞いたからでした。今回も運良く、最初の応援演説を中継で聞きました。正直、やはり内容も良い上、彼の戦う姿と聴衆への気遣い、そして愛嬌に好感を覚えました。

相変わらず不法移民を「動物」と呼んだり、民主党を「犯罪の党」と言ったりすることに不快も感じましたが、「中国との貿易不均衡にこれ以上耐えられない。中国との競争に米国は勝つ。」などの中国関連の発言には中国人の私でさえ不愉快を感じませんでした。

フェイクニュースへの批判には、私は痛く同感しました。前回の大統領選ではニューヨークタイムズが開票日の直前にもヒラリー氏が勝利する確率は90%以上と掲載し続けました。いったいどこの誰に調査した結果だろうかと思いましたが、トランプ氏が当選した後、何の説明もお詫びもありませんでした。

トランプ氏の演説を取材するCNNなどのマスコミにトランプ氏の支持者たちがブーイングをしたり罵声を浴びせたりするのはよい風景ではありませんが、日ごろの大手マスコミの偏向と傲慢に不満を募らせてきた民衆が多くいるのも事実です。彼らは決してトランプ氏に洗脳されたのではなく、思惑と既得権益のためによく捏造を行うマスコミの実態を知っているからです。

トランプ氏が何を考えているか分からないという人が多いのですが、彼が若い時の発言を聞けば、彼こそ持っている考えを変えていないことがよく分かります。良くも悪くもです。多分、「何を考えているかが分からない」という人には彼の柔軟性、つまり「考えは変わらないが、解決方法について思い付きで柔軟に変える」ことに対しての苦手意識があるのでしょう。

トランプ氏の癖は完全にベンチャー経営者の癖です。大胆に目標設定を行うが、行き詰まりを感じたらやり方を180度変えてみる柔軟性も持つのです。朝令暮改と言われても耐える強さがあるからこそできる技です。既に故人となりましたが、このような素質を持つ日本の政治家も少なくありません。

優れた経営者はそれほどマーケティングデータを見ません。調査会社のデータを見ながら経営すれば競争に勝てるほど、ビジネスは甘くありません。現場感覚はなによりも大事です。トランプ氏は大変現場感覚を持つタイプです。自分が売り込む顧客(選挙民)のセグメントを明確にし、彼らと現場で接触し、八方美人をやめるのです。これこそ優れた経営者のやり方ですが、政治家としてこの手法をとって勝てるとは意味深いです。

現在の米国社会は「分断された」と言われていますが、経営の視点から見れば今はセグメンテーションを明確にする必要がある時代です。時代変化がトランプ氏を求め、トランプ氏がその変化に応えたのです。

信念を持ち、市場に順応し、欠点と愛嬌を同時に持ち合わせるトランプ氏は今の米国に相応しい大統領です。良くも悪くもです。


(2)宋メールの今後

今日も宋メールを読んでいただきありがとうございます。たぶんこれを読んでこうでもないああでもないと思う方もいれば、なるほどと思う方もいるでしょう。私にしてみればどちらでも構わないのです。そもそもこれを書くのにかなりしんどい思いをしているのです。

実は私は数年前から宋メールを負担に感じるようになりました。その理由は自分の経験と環境に由来すると思います。

まず今回も触れたように、マスコミなどの言論発信を商売にしている人々は自分や所属組織の私心、利益と信仰に基づいてフェイクニュースも含めて発信しているのに対して、宋メールはまるでそのようなモチベーションを持ち合わせていません。昔は顧客サービスとしてそしてマーケティングツールとして使っていましたが、引退してから13年後のいま、そのような目的が全くと言っていいほど、無くなっています。

続いている唯一の理由は古い読者(たぶんファンと言ってもいいのですが)がいることです。このため二週間一回、頭を絞って絞って書きたいテーマを探すのですが、ここ数年、どんどん難しくなってきました。

それは私の頭が枯れたのではなく、日本の読者の方々と重ねる部分、共有と同感できる部分がどんどん少なくなってきたからです。

私はここ数年、日本にいる時間が少なくなりました。日本に関するニュースは中国語や英語でたまに見るのですが、日本のマスコミが発信する日本語ニュースは殆ど見ていません。特に国内問題に関しては、たまに日本に来てテレビのニュースを見てみるのですが何を言っているのかはさっぱり分かりません。経緯と背景を知らないでみると本当に意味が分かりません。

また、中国や米国の事件やニュースを取り上げたくてもその背景や思惑など、まるで日本のマスコミと異なるため、伝えても日本の読者がピンとこないですし、納得もしないでしょう。

売れる本をよく出す出版社の知人から聞いたのですが、売れる本を出すコツは「著者が書きたい内容を書くのではなく、読者が読みたい内容を書くこと」です。

「間違いない!」と思いました。本だけではなく、すべての言論商売も同じです。商品である以上、商品の原理が同じはずです。ヒット商品のコツは作る側が作りたい商品ではなく、買う側が買いたい商品を作ることです。ごく当たり前の原理原則ですが、言論人たちは正義、正論と世論の蓑の下にわずかな利益と権益(印税、出演料、講演料など)を必死に守るところが哀れなのです。

まあ、私がほかに食べる方法がなければ、最悪情報発信して生計を立てることも考えますが、少しでも実務と実業で稼ぐ力があれば、評論家や言論家としての商売に落ちたくありません。

商売でもないのに、過去の付き合いと古い知人の期待を裏切らないために続けてきたテレビ出演とエッセイは本当にしんどいのです。昨年の週刊文春連載は本当に尊敬していた新谷編集長や起業家の知人の希望に負けて引き受けました。

あれからもう負けてはいけないと思いました。だからここ一年以上、私は全てのテレビ出演を断りました。日本にいない時間が多い上、たまにいても日本社会の情報と肌感覚にかけているからです。何よりも日本社会に何かを言うメリットも使命感もまるでゼロです。

決して私は日本への愛着が無くなったわけではありません。中国に対しても米国に対してもマスコミに出て何かを発信するメリットと使命感はゼロです。人様に屁理屈を言えば、一番の被害者がまず自分であることを、私はよく知っているからです。

冷静でいたいならば、本当のことを知りたいならば、まず人様に教えたがる、言いたがる癖を無くすことです。言っても次の瞬間に「本当は違うかもしれない」と自戒することは重要です。

人に教えたがる人も人を妄信する人も、独立して幸福で豊かな人生を掴むことはできません。

宋メールを全く止めてしまうことも考えましたが、やはり一部の読者友人からのアドバイスもあって今後は不定期に発行することにしました。二週間ごとに必ず間に合うように原稿を出すことは実にしんどいことです。たまに編集部の責任者からの催促に腹が立ってついつい怒りを感じたことさえありました。

この場を借りてお詫びと感謝を申し上げます。14年も支えてくれたソフトブレーンの編集部、ありがとうございました。

そして読者の皆様、こんな後ろ向きの宋メールに付き合ってくださって本当にありがとうございました。今後は不定期になりますが、良かったらまたお付き合いください。

ページの終わりになります。

このページの上部へ戻ります。